経理実務のエクセル②|使用頻度の高い関数を知る
前回に続き、今回も経理実務でエクセルが具体的にどのように使用されるかについて、実際の業務フローを取り上げながら、使用頻度の高い関数をご紹介したいと思います。
なお、経理実務で想定される作業には以下があります(一例)。
②入力内容チェック 前回の記事
③変動分析 前回の記事
④決算書作成 今回の記事
⑤決算データ収集 今回の記事
⑥個別論点検討
⑦監査対応
⑧その他、諸々
前回の記事で①~③についてはご紹介済みです。今回は、④⑤についてです。上場企業やグループ会社を抱え連結財務諸表を作成する必要があるケースであり、エクセル難易度的にも上がっていますが、より実践的内容となります。
是非、最後までご覧ください。
『決算書作成』でエクセルを使う
作業難易度 ★★★☆☆
会計システム(勘定奉行、弥生会計、JDL、TKC、ミロク等)を利用していると、そのまま決算書が作成できるケースが通常です。特に中小企業や非上場企業で、税務申告メインの決算書作成であれば、まさにこの会計システムから出力した決算書で十分なケースも多いでしょう。
しかし、企業規模が大きくなる(=上場する)と、会計システムから出力されるデータをそのまま使用できるケースは少なくなります。理由は、求められる内容に判断が多く入るためです。
例えば開示科目。伝票起票で使用する「勘定科目」から、決算書作成時には「開示科目」へ組替えが必要になりますが、どの「勘定科目」をどの「開示科目」に集計するかは、判断が入ります。
また、金額規模によって個別掲記の判断もあれば、注記等は、定性的記載も多くあるため、企業毎で記載内容は大きく変わります(そもそも記載するか否かの判断もあり)。
1.会計システムで試算表まで作成
2.当該データをエクセルで加工し決算書作成
3.プロネクサス等を利用し入力
*プロネクサス社:開示資料作成支援の企業
*プロネクサス社提供システムで情報入力⇒EDnet、EDINETへ自動転記
上記の理由から、決算書作成ではエクセルが活用される場面が多々あります。
決算書作成で使用するエクセルスキル
一例ですが、決算書作成のためのエクセルを使った作業イメージは以下のようになります。
1.基礎データ(試算表)を会計システムから出力
・勘定コード、科目名、金額等のデータを出力します。通常、「csv形式」で出力され、エクセルで加工することが多いでしょう。
2.加工用エクセルを用意 例)ひな形シート、基礎データシート、変換TBLシート
①ひな形シート
決算書の最終形を用意(BS、PL、CFのフォーマット・開示科目記載・金額ブランク)。
必要に応じCHK用の関数等を使用(貸借それぞれの総資産合計がイコールかを確認する等)。
②基礎データシート
csvで出力した試算表データの貼り付け用シート。
③変換TBLシート
試算表科目と表示科目の対応表を用意。
3.1.の基礎データを2.の加工用エクセルファイルへ貼り付け
⇒基礎データシートに張り付けると、Vlookup関数で試算表科目が表示科目へ変換
⇒ひな形シートは、基礎データシートの変換後値をSUMIF関数で集計
簡単な例ですが、いかがでしょうか。
エクセル難易度は「中」。と言っても、使用する関数はVlookUp、SUMIF関数あたりまでで十分でしょう。後は慣れの問題ですが、役割別に複数のシートを作成し、集計する等、わかりやすいファイルを作成することができればベストです。大事なことは、関数単発の理解はもちろんですが、複数の関数を自在に組み合わせられるかが、大きな差になるでしょう。
なお、作業難易度については、決算書の作成のみ(注記除く)であれば、ある程度、機械的に作成可能です。しかし、個別掲記の条件や、会計基準の変更(近年なら収益基準等)の影響を受ける場合もあるので、しっかりCHKすることが実は必要です。
決算データ集計でエクセルを使う
エクセル難易度 ★★★★★
作業難易度 ★★★☆☆☆
続いて、決算データ集計作業についてです。
実務上は、よく「パッケージ」や「子会社パッケージ」と言われます。連結会社がある場合、親会社は連結財務諸表作成のために子会社からデータ収集する必要があります。そのデータ収集でエクセルを使用するケースです。
連結決算の観点から必要な情報を記載してもらうフォーマットを用意し、子会社等へ発送、入力してもらってから返送してもらうイメージです。
この作業は、連結子会社があれば必ず必要になりますが、子会社の数により対応は異なります。私の経験上では、20社を超えてくると通常、連結会計システム(DIVA)等を利用し、各子会社で必要情報を共通の会計システムに入力してもらうことが多い印象です(その場合は、エクセルの出番はなし)。
一方で、10数社くらいまでは、エクセルで対応しているケースもあります。その場合は、かなり大変な作業となります。
決算データ集計で使用するエクセルスキル
連結決算のために必要な項目を網羅的にカバーした報告用のエクセルフォーマットが必要です。しかも、子会社に回答してもらった後は、そのデータを使用して連結決算作業をすることになるので、後続の連結作業の効率化まで意識したエクセルの作りにしておく必要があります。また、入力漏れとともに入力ミスがないような工夫も必要でしょう。
ここで、おおよそどのような情報が必要かを例示します。
・BS、PL、CF情報
・グループ内取引、債権債務情報
・採用している会計方針
・退職給付の方針、PBO情報等
・資産除去債務の明細
・借入金明細
・社債明細
・金融商品情報
・固定資産の増減明細
・税金費用の情報(繰欠の明細等)
・自己株取得状況 等
一例だけでもこのくらいあります。もちろん、「該当なし」の子会社もあるでしょうが、本当に「該当なし」かを確認する必要があります。網羅性は大事ですね。
また、上記例の中には「注記でこんな情報必要だっけ?」という情報もあるかと思いますが、注記以外(連結消去のためや、投資CFや財務CF等、直接法で作成するパート等)で必要な情報だったりします。
それでは、具体的にどのようなエクセルスキルを使用するか見ていきます。フォーマットに入力する側(子会社担当者)は、基本、ベタ打ちになるので難しくありません。やはり、問題は当該フォーマットと回収した後、連結決算作業につなげるための作りこみでしょう。例えば、以下のイメージです。
①入力者の誤入力を防ぐため必要セル以外に「入力制限」を行う
②誤った数値(逆残)が入力されたら「警告」が表示されるよう「条件付き書式」を設定
③入力チェック用シートを作り、漏れがあれば「×」表示される仕組み
④入力内容は「SUM」や「SUMIF」で自動集計され異常値がないか目視できるようにする
⑤回収したシートを集計するために「マクロ」を利用 等
いかがでしょうか。通常、これら報告用のファイルを0から作成することはないとは思いますが、仮に、あなたの就職した企業が、就職後に連結を始めた場合は、こういった作業をゼロから行う必要があるわけです。
以上から、作業的にも、エクセルのスキル的にも非常に難易度が「高」となります。
経理で役立つエクセルスキル② まとめ
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✓ 子会社データ収集(PKG)をエクセルで行う場合は一苦労
今回は前回より難易度が上がっていますね。ただ、難易度の話は、使用する関数一つ一つの理解というより、いかにそれを組み合わせるかがポイントという話です。この点が、テキストのみで勉強した人と実務で使用したことがある人との違いかなと思います。
ぶっちゃけ、マニアックな小難しい関数やマクロは使う必要はありません(むしろ、他の人がメンテできない関数は使うべきではありません)。平易な関数をいかに組み合わせて目的の作業を完遂させるか、その点を意識できれば、実務で十分対応可能でしょう。
<他の「経理で役立つエクセルスキル」シリーズもご覧ください>
★経理で役立つエクセルスキル①「伝票起票~変動分析」編はこちら
★経理で役立つエクセルスキル③「個別論点検討~監査対応」編はこちら
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