「残高確認状」を受け取った時の対応|監査手続きの理論と実務

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「残高確認状」の対応方法やそれにまつわる不正事例等

さて、今回は後編として「もし経理担当者に残高確認状が届いたらどうするか」「確認手続きを逆手にとって行われた不正事例」をお伝えします。

つまり、「確認」を受ける側である経理担当者側の話や、「確認」に絡む不正事例を中心にお伝えします。会計士受験生の方はもちろん、経理実務担当者の方で「確認状」を見たこと、聞いたことがない、対応したことがないという方まで、知ってもらいたい内容が満載です。是非、最後までご覧ください。

・前編:「確認」とは何か、実務と理論を一致させる!⇒こちらから
・後編:「確認状」が受け取ったらどうする?「確認状」逆手にとった不正事例

*このブログでは、前後編に分けて「確認」についてご紹介しています。前編(「確認」とはどういう監査手続きか?等)ついては、こちらをご覧ください。


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「残高確認状」を受け取った時の対応

まず、初めて「監査法人」というところから「残高確認状(以下、残確)」というものが届くと普通は驚きますね。

『監査法人』からいきなり「確認状」が届いたけど・・・

何か調査されてる?疑われている?

そりゃ、不安にもなるでしょう。しかし、ぶっちゃけ「大したことはない」ので、恐れることはありません。そもそも、この監査法人からの「残確」は事前通告なく、いきなり送付されるものです。自分の会社が疑われているわけではなく、監査手続きの一環として(通常は)無作為に抽出されただけ。送付されたこと自体、特に問題ないことです。まず、慌てないことが大事です。

「残高確認状(通称、残確)」の意味

それでは、「残確」の対応方法を知る前に、まずは意味を知りましょう。要約すると「監査法人が監査先企業の計上額が正しいか確認するため、取引相手に送付する書類」のことです。

ポイントは、2つ。送付した主体は「監査法人」であることと、監査されているのは「監査先企業」であり、それを受け取った取引相手会社ではないということです。つまり、取引相手会社たる残確の受け手は、監査法人の手続きの手伝いとして、協力するイメージです。なので、まずは「気楽に、でも正確に」対応しましょう。

「残確」の具体的な対応方法

それでは、受け取った残確の対応=返信方法についてです。端的には、下記の作業を行えばOKです。

“残高確認状を受け取った時の対応”
✓送り先企業に対する自社の債権や債務の金額を記載
✓差異についてコメントや明細等の補足資料を添付
✓社印を押印し期日までに返信

送り先企業に対する自社の債権や債務の金額を記載

残確には確認したい勘定科目、金額が通常、記載されています(例えば、売掛金1,200,000等)。これに対し、受け取った側は、先方に対する買掛金残を記載すればOKです。取引は表裏一体、売掛と買掛は同額のはずなので、その一致を確認しているわけです。

差異についてコメントや明細等の補足資料を添付

回答時に注意すべきは「残確記載の金額に合わせにいく必要はない」点です。あくまで、自社が先方に対し計上している金額を記載しましょう。それによって差異が出れば、その原因が何なのか、検証するのは監査法人です。

ちなみに、差異が発生した場合で、自社でその理由がわかる場合は、その旨を備考欄に記載したり、参考明細等を添付し返信すると良いでしょう。監査法人からの問い合わせを省けますからね。もし分からなければ無理に調査は不要です。ただ、明細等を添付してあげると、その後の調査がスムーズなので監査法人的には助かります。

社印を押印し期日までに返信

残確には「押印箇所」がありますが、そこは会社印が通常です。個人の担当者印ではないのでご注意ください。

そして、最後の注意点。それは、「回答期日」です。これだけは、可能な限り、守ってほしい期日になります。監査法人側からすると、送付した確認状は全て回収することが原則です。そのため、期日までに到着していなければ、返信があるまで追いかけられます。もちろん、この「回答期日」は若干の余裕を持って設定されていますが、あくまで若干です。そのため、期日が過ぎれば過ぎるほど、監査法人からの催促も激しくなります(正確には、監査法人経由で先方の企業担当者から連絡)。

補足.確認状の返信を忘れていた!期日に間に合わない!時はどうする?

もし、期日に遅れそうなら一報入れておけば大丈夫です。繰り返しですが「残確の対応は監査手続きのお手伝い」ですからね。また、「返信を忘れていた」という場合も同様です。気づいた時点で一方、先方に連絡すればOKです。

「残高確認状(残確)」の対応方法 まとめ

“残高確認状の対応方法 まとめ”
✓無作為抽出なので受け取っても慌てない
✓先方に対する債権や債務の残高を「ありのまま」記載
✓先方の金額と差異があれば明細を添付するのも◎
✓回答期日は守る

「確認状」を逆手にとった不正

「確認」は監査手続きの中でも非常に強力な監査証拠が得られる手続きです。それは、監査先企業と独立した外部から、監査法人が直接入手する証拠であることからもわかります。ただ、それゆえに信頼しすぎているという面も。ここでは、それが逆手に取られた不正事例をご紹介します。

「確認状の改ざん」

そもそも、そんなことできるんだっけ?

そうです、普通はできません。なぜなら、監査手続きの「確認」は、監査人自らが確認状を相手先へ送付し、監査人自らが回収し、内容を確かめるため、監査先企業が介在する余地がないからです。しかし、それをやったケースがあります。どうやったのか。それは、監査法人が送付した確認状を送付先から企業が回収し、偽の金額を記載、偽の社印を押印した後に、監査法人へ返送する方法でした。

そうは言っても、送付先から企業が確認状を回収できるんだっけ?

確かに普通は出来そうにありません。監査法人が送付した確認状には「監査法人宛の返信封筒」もセットされています。普通に返信すれば、監査法人に配達されるはずです。

しかし、やりようはあります。例えば、送付先企業に「監査法人から確認状が送付されたと思うけど、誤りがあったらしく、いったん回収してほしいと頼まれた」と言って、原本を回収する方法や「送付先企業にお願いし、偽情報で回答してもらう(送付先企業とグルになる)」等があります。特に前段は、確認状の意味を知らない担当者であれば、「わかりました」となるでしょう。

一方で監査法人は、「確認」自体が強力な監査証拠を入手できる手続きと考えているため、返送されてきた確認状の記載内容に疑うことはなく、金額が一致していれば深堀しないでしょう。当然、不正が見抜けないこととなります。

強力な監査手続きであるからこそ、隙がある

「確認」という手続きを信頼しすぎているからこそ、起こってしまったとも言えるでしょう。ここから言えることは、完璧な監査手続きなどありえないということ、そして、悪いことを本気でしようと思えば、それを防ぐ手立てはないということです(内部統制然り)。

特に「監査証拠」を直接、改ざんされてしまっては、打つ手がありません。そう考えると、監査人にとっては、不正を見抜くことは非常に厳しいケースだったといえます。

「確認状」にまつわる不正 まとめ

受験生の方や、経理実務を担当している方が直接関わることはまずないことです。また、受験勉強で学ぶ内容でもないでしょう。しかし、「監査」は100%ではないという意識を常に持つためにも、どのような不正事例があるのかをしっておくことは、実務では役立つものです。

とはいえ、なかなか不正事例を知る機会はないのですが、上場会社で発生すれば、第三者委員会を設置した上でその経緯が詳細に公表されますし、会計士協会では「監査提言集」として参考情報をHP上で広く公表しています(こちらの専門情報一覧からキーワード「監査提言集」で検索)。

引用元:日本公認会計士協会HP>専門情報一覧>「監査提言集」の講評についてFY22より抜粋

興味のある方は、ご覧になってみてください。

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