正しい「経理実務」のイメージを持つ
どういう職種に就きたいかについて「経理」という方もいるかと思います。ただ、一言で「経理」と言っても行う業務は様々です。未経験の人が目指す「経理」と、会計士が転職で目指す「経理」、当然異なりますが、それを知っていますか?
簿記を取ったけど、実際の経理って何をするんだろ?エクセル使うっていうけど、どう使っているの?未経験からの経理って無理? etc…ネットで見ても、質問がわんさか出てきます。
ということで、今回は、これらの質問に回答したいと思います。そして、まずは実際の経理業務は何をするのか、「未経験の人が目指す経理業務」と「会計士が転職で目指す経理業務」の違いにフォーカスして、ご紹介します。
かなり私見がありありですが、ご覧いただければ、イメージと実際の「経理実務」のギャップが埋まるはず!ゆっくりと読んでみてください。
「経理」といっても様々
まず、「経理」と聞くとどのような業務を思い浮かべるでしょうか。よく、「日商簿記2級を取得して未経験から経理に挑戦」という内容を見かけますね。一方で、別の記事でも書いていますが、会計士のキャリアとして「一般事業会社の経理で活躍」というパターンもあります。
どちらも「経理」と呼んでいます。それなら、行う仕事、業務は全く同じなのか?というと、これが全く異なっています。なので、「経理ってどんなことするんだろう?」と思ったなら、まずは、「未経験の人が目指す経理業務」と「日商1級~税理士、そして会計士の人がキャリアアップとして目指す経理業務」は違っていることを理解した上で、自分が求めている情報を探す必要があります。
なお、ネットですぐ出てくるのはだいたい「未経験の人が目指す経理業務」のイメージです。いずれにしても、このスタートの部分でギャップがあると、「こんなはずではなかった」となるので、正確に理解していきましょう。
経理未経験の人が目指す「経理」業務
それでは、まず最初に経理未経験の人が目指す「経理」業務についてご紹介します。こちらは、ネットで検索するればすぐに出てくるものも多いでしょう。主に下記のような内容です。とにかく、カバーする業務範囲はかなり広い!
・税務業務、顧問税理士への資料提供
・出納業務
・請求業務
・給与計算
・決算書作成
このあたりでしょうか。ただ、これらの業務も企業規模によって、経理が行うか否か、異なってきます。例えば、中小企業であれば、上記全てを経理課や経理部と呼ばれる部署で行うということがあるでしょう。それが、企業規模が大きくなると、出納業務、請求業務=財務部、給与計算=人事部、決算書・税務=経理部のように役割が細分化、専門化されていることが通常です。
そのため、ざっくり表現するなら、中小企業の経理=浅く・広く何でもできる、大企業の経理=専門特化と言えるかもしれません。それでは、列挙した業務内容について、もう少し詳説していきます。
日々の取引について起票
日商簿記2級があれば十分対応できます。日次の取引事象を伝票にする業務。今は、ほぼ会計ソフトを使って行う入力作業がメインです。私もこれまで、監査法人や転職後に複数のシステム(弥生、勘定奉行、魔法陣、TKC、SAP、DIVA等)を見たり、触ったりしてきましたが、いずれも難解なものはなく、操作性も容易なものが多い印象です(ただ、複雑な処理が可能⇒マスタ、テーブル等の設定も複雑ということで、DIVAなんかは作りこむほど複雑になっていきますが)。転職前であれば、とりあえず、パソコンの操作に慣れておけば問題ないでしょう。
税務業務等
こちらは逆に日商簿記2級ではほぼ役に立ちません。全く分野が違いますからね。まさに慣れ次第。とはいえ、多くは企業に顧問税理士がいるため、自身で申告を行うというより、税理士から要求される資料を経理担当者が用意するイメージです。なお、日次の起票業務においては、法人税よりまずは消費税。もし気になるようなら、事前に学習しておくとよいでしょう。
出納業務
こちらも日商簿記2級までの知識ではなかなかピンとこない業務でしょう。請求債権の回収、滞留債権管理、支払いの管理等ですが、メインは資金繰り。特に中小企業においては、命綱です。赤字経営だったとしても会社はつぶれませんが、資金は底をついたらすぐに会社は倒産します。
また、実際の「お金」を扱う部署のため、不正リスクが高い業務でもあります。ダブルチェックだなんだと言いますが、経理を一人に任せている会社は、沢山ありますからね。たまにニュースで「xx億円、経理事務員が着服」なんてのを見かけるのが一例です。
資金繰りや不正リスクの点から、最も重要な業務の一つといえます。
給与計算
日商簿記2級、というかこれは税理士や会計士であっても基本は専門外です。そのため、企業では、人事・総務部で行うケースもありますが、中小企業では他の業務とまとめて経理が担当することも。
なお、給与についても「給与計算ソフト」があります。そのため、定例の給与払い等の業務は、難しいことは少ないでしょう。むしろ、入社、退社があった場合や、各種社保の手続き、退職金の手続きやベア等昇給がある場合が大変です。給与計算のマスタ、テーブルの変更はもちろん、手続き関連は期日までに役所へ提出するものもあります。初めてであれば、社労士に助けてもらいながらであっても非常に大変でしょう。
決算書作成
日商簿記2級の知識をがっつり使います。この部分は、日商1級、税理士や会計士等、より上位の知識があればあるほど役立ちます。とはいえ、中小企業であれば、通常は単体決算、しかも会社法決算というより税務申告メインの決算でしょうから、日商簿記2級の知識で十分対応可能です。
資格に合格してから時間が経っている方は、是非、復習しておいてください。
以上、経理未経験の人が目指す「経理」業務でしたが、いかがでしょうか。とにかく念頭に置いておきたいのは、日商簿記2級を取得し、未経験から経理職を目指す場合、「経理のことだけする」わけではなく、「何でも屋」になるケースが多いということを知っておいていただければと思います。そして、どうしても気になるなら、転職時に自身が担当する業務範囲を確認しておくことをオススメします。
日商1級~税理士、会計士がキャリアアップとして目指す「経理」業務
さて、続いては経理の上位資格を有している人が転職して目指す経理業務についてです。もしくは、経理実務を複数年経験しより上を目指したい方が対象です。それではどのような「経理業務」があるかですが、主に以下です。
・申告書作成、顧問税理士対応、国税対応
・グループ会社管理
・予実管理
・決算書作成、会計士対応
・IR対応
どうでしょうか?前述の経理未経験から目指す「経理」の業務内容とガラッと変わります。これらの業務内容は、「企業規模」にかなり依存します。そして、今回、記載した内容は主に「大企業」の場合となります。
つまり、日商1級~税理士、会計士の人がキャリアアップを考えるなら、まずは大企業を目指す、そのため、「大企業」で任される経理業務を記載していると考えてください。
なお、「大企業」は、別に会社法等で定義がある用語ではないんですが、この記事では売上が1,000億を超えたあたりの企業をイメージしています(だいたい、このくらいの規模からは会計業務が部署毎で細分化、専門化されるイメージ/私見)。
現場での起票業務フォロー
「経理」=「伝票を作成する、入力する」というイメージが強いかもしれませんが、大企業の本社における経理部では、その限りではありません。なぜなら、日次の起票業務(SAP等での会計データ入力)は、各現場部署の経理担当が行うためです。それでは、経理部は何をするか?というと、経理部メンバーは、各現場部署のフォローをするイメージです。
現場担当が起票でわからないことがある時、例えばどの勘定科目を使用すればいいのか、消費税の課税コードがわからない、伝票を誤起票してしまったetc…こうした質問対応がメインになります。もちろん、決算整理に関する起票は行いますが、少なくとも、日次の起票はほぼ皆無。それが大企業における経理部です。
また、その他の業務としては、会社が新しい取引を始めた場合や、新規に会社を買収を検討している時等、新規発生事案について、社内的にベストかつ、会計基準に準拠し、また、監査法人や税務上も問題のない処理を検討、決定する作業もあります。アグレッシブな企業では、むしろこういった作業が中心になるかもしれません。
税務業務
まず、経理部が中心となり申告書を作成します。単体申告はもちろん、連納の場合もTKC等の会計システムを使用し、作成することになります。そして、作成した内容について、顧問税理士のチェックを受ける流れが主流です。他の税目についても同様です。
えっ?自社で作成できるの?と思うかもしれませんが、そもそも大企業と呼ばれる規模なら、社内に税理士資格保有者が複数いるケースが通常です。その他には、また、現場部署からの税務関連質問対応もあれば、税務調査の際は、その対応も行います。
よく、税務調査では、税理士が立ち合いを・・・なんてありますが、企業規模が大きい場合、いちいち顧問税理士は呼ばず、社内の税務グループが対応することも多いでしょう。どちらかというと、見解が分かれたり、争う場合に顧問税理士の見解をもらう感じでしたね。
予実管理
企業によっては、「経営管理」等の名称で別部門が行うこともありますが、実績をしっかり把握しているのは経理部なので、こうした業務も担うことがあります。こちらは、経理実務というより、経営へのレポートをどのように行うかという視点です。
私も経理実務からこの業務を中心に行う機会を得ましたが、非常に面白いものでした。何より、自分が経営にレポーティングをするので、経営陣と非常に距離が近く会話ができるのは、良い経験となりました。普通の部署では、なかなかCEOやCFOと話す機会はないですからね。
・決算書作成、会計士対応
経理の上位資格を保有している方が目指す、もしくは企業から求められる多くはこの業務ができる人材でしょう。中小企業、特に税務申告メインの決算であれば会計ソフトに入力することで決算書の作成がある程度、できます。しかし、大企業、特に連結子会社や持分法会社、在外子会社や出資組合等、複数のグループ会社を合わせて決算を組む場合、それだけで2~3週間は対応が必要になります。
個別論点があれば、会計基準を読み解き、処理を考え、それを仕訳に落とし込む必要があります。また、その処理について、会計士への確認も必要でしょう。それ故に、常に転職市場では一定数、経理のプロフェッショナルを求める求人があるわけですね。
IR対応
株式が上場等している場合、決算発表を行います。その際、プレス向けに記者会見を実施するケースもあります。そうした役割は、基本、経理本部長やCFO、CEOが担うことになりますが、事前の資料作成、Q&A集等は、経理部が作成することも少なくありません。
ただ、IRは、広報部やIR専門の部署を設置しているところもあり、経理が必ず行っているわけではありませんが、決算内容について関与することは間違いありません。
簡単ですが、以上となります。いかがでしょうか。よく聞くイメージの「経理=起票」「経理=事務」ですが、このパートで紹介した内容は、いずれも機械的にできる作業でもなければ、楽な仕事でもありません。特に、税務調査対応や、決算期の監査対応は、ストレスしかありませんし、業務に従事するなら、ひたすら会計知識のブラッシュアップ必要となります。こうした点について、ギャップがないようにしたいところです。
「経理実務」とは何か まとめ
・会計ソフト入力はもちろん、それ以外の業務をすることも
“会計士がキャリアアップで目指す経理実務”
・起票はほぼすることはない
・個別の会計論点検討、国税や監査対応メイン
・業務によっては経営に近い仕事も
未経験から経理を目指す人も、会計士からキャリアアップで経理を目指す人も、とにかく「経理実務」の中身をまずは知りましょう。その上で、本当にその転職、キャリアでよいのか?を自分の中で納得できれば、是非、経理実務の道へ挑戦してみてください。
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